歯科アマルガムの安全性を巡って多くの議論があります。

「歯科アマルガムは危険だから外すべき」

「歯科アマルガムは安全な歯科材料で危険性は確認されていない」

このように、齟齬が生じる原因は、水銀の動態を探るための検査結果について、誤った認識が蔓延っているためではないかと考えています。

そこで、体内の水銀動態に関するエビデンスと、水銀に関する検査の解釈について説明します。

歯科アマルガムからの水銀は体内に入り込んでいる

歯科アマルガムから水銀が蒸散し、体内に入り込むのは間違いない事実です。

体内に水銀が入り込んでいるかどうかを判断する一番確実な方法は、死後解剖です。

Guzzi Gらは、12 個以上のアマルガムによる詰め物をした個人は、脳を含めた様々な細胞組織において、同様の詰め物が 0~3 個の個人に比べて 10 倍以上も水銀濃度が高いと報告しています。

( Am J Forensic Med Pathol 2006, 27:42-45.)

また別の剖検調査において、10 個以上アマルガムの詰め物をしている人は、腎臓組織において504 ng Hg/g 、肝臓においては 83.3 Hg/gを記録しました。

( Dtsch Zahnärztl Z 1992,22,47:490-496.)

他にも、死亡した人から数倍の濃度の水銀が様々な体組織から計測されたと報告されています。

血中、尿中水銀濃度は重症度を反映しない

水銀の血中濃度や尿中の数値と、体内蓄積量や臨床症状の深刻度には相関性はありません。

水銀量が心配ないと主張している団体の根拠には、しばしば、血中や尿中の水銀濃度が低いことが使用されていることがあります。

しかし、これは間違いです。

WHO が1991年にこのように見解を出しています。

「水銀は滞留する毒性の典型であり、取り込まれた水銀のほとんどは体組織に吸収されてしまう。

尿の数値が示しているのは、排泄された水銀量に他ならない。

すると問題となるのは、異なる体組織中にどの程度の水銀が滞留しているのかということだ」

複数の動物実験、及び人体実験で示されているように、血中や毛髪、尿中の水銀量が低値であっても、組織中(脳や腎臓など)では高値を示すような例が存在しています。

Trace Elem Electrolyte 1997,14:116-123.
FASEB Journal 1995,9:504-508.
Sci Tot Environ 1993,138:101-115.
FASEB Journal 1989,3:2641-2646.
Exp Mol Pathol 1990,52:291-299.
Am J Physiol 1990,258:939-945.
Clin Neuropath 1996,15:139-144.

遺体を用いた最近の研究では、尿中と血中の無機水銀値と脳組織中の数値には、いかなる関連性もないことが確認されているのです。
(an autopsy study. Environ Health 2007, 11:6:30.)

ドラッチらは、職業的理由から水銀の蒸気に曝されており、水銀中毒の典型的な臨床兆候が見られる人では、その 64%が尿中水銀値は 5 μg/l であることを突き止めました。

これは通常、悪影響は見られないはずの数値(無毒性量)です。

同様の結果は、血中、及び毛髪における水銀量の検査でも得られています。

Int J Hyg Environ Health 2002, 205:509-512.
Int J Hyg Environ Health 2004, 207:183-184.

むしろ、毛髪からの水銀量が少ない場合が危ない

水銀の血中、尿中濃度と、重症度には相関性はないと述べましたが、もっと言えば、尿中排泄量と重症度は反比例します。

尿や毛髪は水銀の排泄経路の一つです。

明らかに水銀に暴露されている(主にアマルガムと魚)のに、尿中、毛髪水銀値が低ければ、それは排泄障害を意味しています。

・尿中の水銀値が高い被験者ほど、アマルガム除去により、神経的な問題からの回復を見せた
(Scand J Work Environ Health 1997, 23:59-63.)

・毛髪から採取された水銀量が多いとされた子供達は、発達テストでより良い結果を示した。
(Neurotoxicology 1995, 16:27-33.)

・胎児期に水銀に暴露していた自閉症の幼児の毛髪水銀値は、健康児よりも 15 倍も小さく、毛髪水銀値が低いほど、重症度が高かった。
(Int J Toxicol 2003, 22:277-85.)

これらの研究は全て、水銀は蓄積量よりも排泄能力の方が疾患の重症度に大きく関わるという事を如実に示しています。

全員にアマルガム除去はお勧めしない

「本当に怖い歯の詰め物」の著者ハルハギンス博士がによれば、歯科アマルガムの起こすもっとも頻度の高い症状は「疲労」です。

私は、慢性疲労外来を行っていますが、初診の患者さんに必ず行うことが2つあります。

それは、「歯に金属の詰め物がないか聞くこと」と、「毛髪ミネラル検査を行う事」です。

これにより有害金属の暴露量と排泄量のバランスを評価します。

暴露量が多いのに、毛髪からの水銀排泄量が低い場合、大体その患者さんは重症です。

その場合、積極的に歯科受診とデトックス(解毒)治療をお勧めします。

逆に、全く疲労症状のない方の口にたまたま怪しい金属を見つけたとしても(例えば、風邪の患者さんにのどを見ているときなど)、特別に何かするわけではありません。

アマルガムは丈夫で耐久性があり、殺菌力も強いといった歯科材料としては非常に優れた性質を持っています。

医科的に問題があるとした場合でも、歯科との綿密なディスカッションの上で、治療方針が決められるべきなのです。

患者側からしたら、体は一つであり、領域ごとに別々に考えることはできません。

自分の身を守ることも大切

水銀の蒸散量

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最後に、安易なアマルガム除去の一番の犠牲者は、歯科医師及びスタッフの方です。

なぜなら、右図の通り、アマルガムは削り取られるときに圧倒的に多くの水銀が蒸散するからです。

私の知る限り、アマルガムを扱うほとんどの歯科医は、(排泄能力の差こそあれ)多くの水銀に暴露しています。

安全なアマルガム除去は、患者さんのためだけでなく、歯科医およびスタッフの方々を守るためにあるのです。

 

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